卒研発表会が行われました!
2025年2月14日に電子情報通信学類の卒業研究発表会が行われ,当研究室からは板本さん,皿井君,永井君が発表しました.
「スピン衛星のスピン軸方向制御の研究」板本 茉凜
概要: 地球周回軌道上の宇宙機において軌道面内運動を制御する場合,宇宙機に対して軌道接線方向に推力を作用させる.リソースの小さな超小型人工衛星において推力を軌道接線方向に維持する場合,3 軸姿勢制御では電力消費が大きく,推進機の軌道上実験において困難が伴う.電力を消費しない受動的姿勢安定化手法の一つに,スピン安定がある.一般に宇宙空間で回転運動する剛体に外力が作用しないとき,スピン軸が剛体の最大または最小慣性主軸に一致するならば,スピン軸の方向は空間に対して時間変化せず一定となる.しかし衛星軌道上では,宇宙機に重力傾斜トルクが作用する.Likins と Pringle は,重力傾斜トルクの影響下にあってもスピンする宇宙機のスピン軸がその場座標系 (FL) に対して一定となる条件を解析的に示した.[1]
本研究では,スピン運動する宇宙機のスピン軸方向をLikins-Pringle 相対平衡を活用して,軌道接線方向に維持する簡便な制御方法の導出を目的とした.重力傾斜トルクの影響下にある衛星のスピン軸方向を,簡便な制御を加えることで FL に対して固定できることを数値解析により示した.今後,実際に加えることができる制御トルクを用いて同様の制御が可能か検討する.また 3 軸制御の場合との消費電力の比較を行い,制御トルクを用いたスピン安定の有用性を評価する.
[1] P. C. Hughes, 原 躬千夫訳, ”宇宙機の姿勢力学”, 2010
「気球望遠鏡用CMGホイールドライバの開発」皿井 元葵
概要:成層圏における科学観測や工学実験では,ヘリウムガス気球が世界で広く利用される.その一つである成層圏気球望遠鏡 FUJIN2 のゴンドラの姿勢制御アクチュエータとして CMG(Control Moment Gyro) がある. CMG とは1 軸または 2 軸ジンバル上に設置されたホイールを高速回転させることにより大きな角運動量ベクトルを発生させ, ジンバルによりそのベクトルの向きを変えることで発生するジャイロトルクで宇宙機の機体姿勢を制御する角運動量交換型アクチュエータである. CMG の利点は小さなモーターで大きなトルクを発生させることができる点であり, 大型の宇宙機の姿勢制御に用いられる. 一方,成層圏は気圧 1/100 気圧以下であり,気温は-40 ℃以下になる過酷な環境である.
本研究ではこのような過酷な成層圏環境で使用する CMG に用いられるホイールモータードライバの開発を目的とした. 成層圏気球望遠鏡に搭載する CMG のホイールモータドライバを試作し,性能を評価した.実験により電流制御 PWM 信号に対する電流と回転数の関係を得ることができた.モータの性能を引き出すためにドライブIC の発熱対策が必要であり,今後取り組む.
「空力トルクが作用する人工衛星の姿勢制御シミュレーションにおける計算簡略化の検討」永井 駿太
概要:多くの人工衛星は高度 600~800km の軌道を飛行するのに対し,より低い高度 200~300km の軌道を Very Low Earth Orbit(VLEO) と呼ぶ.特に地上撮影において高解像度が期待できることから,近年注目されている.VLEOでは空気密度が大きいため人工衛星に対する空力トルクの影響が顕著である.空力トルクは,衛星の進行方向に垂直な投影面積(通過断面積)の大きさと,通過断面積の中心(空力中心)と質量中心の距離によって定まる.複雑形状の衛星に作用する空力トルクを推定するためには,通過断面をレイトレーシング法を用いて計算する.この方法は多くの繰り返し計算を要する姿勢制御シミュレーションにおいて計算コストが高く,実行困難である.
本研究では姿勢制御シミュレーションに組み込める計算コストの小さな空力トルクモデルを求めることを目的とした.衛星の姿勢ごとにレイトレーシング法により求めた空力トルクを姿勢角の関数として簡略化した.今後,VLEO 衛星の姿勢制御シミュレーションに応用する.