X線突発天体監視速報衛星「こよう」は,金沢大学先端宇宙理工学研究センターが開発した超小型人工衛星です.観測例が少なく原理が未解明なX線,ガンマ線突発現象を地球周回軌道上で検知し,地上の観測網へ通報することを目的としています.当研究室では,衛星の生命線である電源システムの開発を担当しました.この衛星はJAXAの「革新的衛星技術実証3号機」プロジェクトに選定され,2023年12月2日に米国ヴァンデンバーグ宇宙軍基地より,SpaceX社のFalcon9ロケットによって打ち上げられました.現在高度約560kmの太陽同期極軌道を飛行しています.

X線突発天体監視速報衛星こよう

ミッション

X線やガンマ線は光や電波と同様の電磁波の一種で,より波長が短くエネルギーが高いものです.発生には巨大なエネルギーが必要で,地球上の発生源としては放射性元素の原子核崩壊や雷が知られています.宇宙でも天体活動の結果としてX線やガンマ線が放出されており,特に1~数秒の短時間にX線やガンマ線が突然大きくなり,また元に戻る「突発現象」が存在することが知られています.このような現象は1日に1回程度,宇宙のどこかで発生すると考えられていますが観測例が少なく,発生のメカニズムは不明です.

電磁波の種類
(Wikimedia Commons を編集して作成 [CC BY-SA 3.0])

General Coordinates Network (NASA/GSFC [PDM])

観測例を増やし,少ない観測チャンスで多くのことを得るため,突発現象を検知したら世界中の天文台や観測施設が緊急同時観測をするネットワークが構築されています(参考).「こよう」は地上から約600 km上空の地球周回軌道で突発現象の発生を待ち受け,突発現象を検知したらすぐに地上のネットワークへ通報する役割を担うことを目的としています.

衛星の概要

「こよう」は,金沢大学先端宇宙理工学研究センター(ARC-SAT)が開発する衛星1号機です.打ち上げ時にはおよそ50cm角の立方体形状で,高度約600 kmの地球周回軌道にロケットから放出されると,自動で太陽電池が取り付けられている面を太陽へ向け,太陽電池パドルを開きます.

「こよう」にはX線やガンマ線を検出するためのミッション機器「T-LEX」「KGD」が搭載されます.いずれも金沢大学で開発された装置です.これらのミッション機器がX線やガンマ線をとらえると,到来した方向と時刻を地上へ即座に送信します.

より詳細はARC-SATのウェブサイトをご覧ください.(参考)

名称KOYOH
開発者金沢大学先端宇宙理工学研究センター(ARC-SAT)
衛星番号/国際標識58464 / 2023-185-C
寸法50 x 50 x 50 cm (ロケット搭載時)
150 x 50 x 50 cm(太陽電池パドル展開後)
打ち上げ時質量45 kg
軌道高度約 560 km,軌道傾斜角97.7度,周期95.77分(2024/3/26現在)
ミッション機器T-LEX,KGD
姿勢制御方式太陽指向 3軸姿勢安定(3軸リアクションホイール+磁気トルカ)
地上局金沢大学角間キャンパス
打ち上げ日2023年12月2日
設計寿命3年
「こよう」の概要(数値はいずれも概算)

当研究室の担当範囲

当研究室では,「こよう」の電源システムの開発を担当しました.一般的に人工衛星などの宇宙機は,表面に配置された太陽電池によって発電し,搭載機器に電力を供給します.余った電力はバッテリに蓄え,地球の日陰側を宇宙機が通過して太陽電池による発電ができないときに,バッテリから電力を供給して機能を維持します.「こよう」のミッションは主に日陰側で行われますので,太陽電池-バッテリによる電力供給は衛星の生命線です.

「こよう」の電源システムは太陽電池パネル,リチウムイオン電池,電源制御ユニット,スイッチボックス等から構成されます.「こよう」が打ち上げられる前に電池の特性を実験を通して確かめたり,試験を通して得られた消費電力を太陽電池やバッテリがまかなえることを数値シミュレーションで確かめています.また,電池は「なまもの」です.適切に保存管理しなければ,徐々に傷んでいきます.フライトまで電池が健全であるように,補充電や電池容量のチェックなどを行います.

電源システムは当研究室の主テーマである「宇宙機の姿勢」とは直接関係しません.しかし,時々刻々と状況が変化する様子をシミュレーションしたり,大きな電力を扱う装置を開発することは,「宇宙機の姿勢」を研究するための知識や技術と通じるものがあります.「こよう」の電源システム開発を担当して得られる知識,経験は,「こよう」以外の実験装置を開発するときに応用されます.

参考

金沢大学衛星1号機「こよう」が打ち上げられました!(当サイト)

金沢大学衛星プロジェクト(金沢大学先端宇宙理工学研究センター)

革新的衛星技術実証3号機|JAXA|研究開発部門(JAXA)

General Coordinates Network (Wikipedia)

GCN - General Coordinates Network (NASA)

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宇宙機システムの設計解析

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