宇宙機が目的の方向に向くためには,その前段階として,今宇宙機がどの方向に向いているかを知らなければなりません.しかし,宇宙機は地上からはるか遠くにあるため,直接観測して向いている方向を特定することはできません.宇宙機にセンサを搭載し,得られた情報を統合して,最も正しそうな姿勢を計算で導き出すことを「姿勢推定」といいます.
姿勢推定の方法
宇宙機の姿勢は,基準となる方向が宇宙機に載っているセンサから見てどの方向に見えるかを測定することで,推定します.基準となる方向は,軌道高度1000 km程度までの低地球軌道を回る宇宙機では,太陽,地磁場,地球方向,恒星が候補です.成層圏気球など大気中にある場合は重力方向(下方向)が加わります.これらを2つ以上組み合わせて,姿勢を決めます.もし1つだけで決めようとしても,3次元空間の中でどちらを向いているか決めることはできません.たとえば,地上に目をつぶって立っている自分を想像してください.目をつぶっていてもどちらが下かを感じることはできるので,重力の方向はわかります.しかし目をつぶったままで体の正面が東西南北のどの方向を向いているか,知ることはできるでしょうか?どちらの方角を向いていても,感じる下の方向は変わりません.重力の方向と,方位磁石使ったり太陽を見て自分が見ている方角を知ることで,初めて自分の3次元空間内での向きを決めることができます.宇宙機も同様に,太陽と地磁場,または複数の恒星の方角を専用のセンサやカメラを用いて計測することで,上下左右前後のない宇宙空間で,自分の向きを知ることができます.
センサを使って太陽,地磁場などを測定するときに,問題になるのがセンサの特性です.どのようなセンサもゼロ点がわずかにずれていたり,同じものを測定したときにXYZ軸で結果が少しずつ異なることがあります.それらのずれは温度や時間で変化することもあります.計測結果のずれを放置していると,推定した自分の向きにも本当の値からずれが生じます.宇宙機はほとんどの時間を人の手に依らず自分で測定し,判断して,姿勢を制御します.判断基準となる推定結果がずれていると,最悪の場合目標を見失って宇宙機は機能を失ってしまいます.
センサの計測結果に含まれるずれをいかに正確に取り除くか,姿勢推定の一大テーマです.多くの研究が行われてきており,まとまったデータを統計的に処理する方法や,毎回の測定ごとに少しずつ修正していく方法など,さまざまな方法が提案されています.
私たちの取り組み
拡張カルマンフィルタによるセンサオフセット除去
カルマンフィルタは,一つ前の測定結果から予想される現在のセンサ計測値と最新のセンサ計測値のずれを用いて,より正しい状態(たとえば姿勢など)を推定する手法です.適切に設計することで,センサ計測値に含まれるノイズやゼロ点のずれを効率的に取り除くことができます.これを用いて,過酷な環境にあるセンサから信頼性の高い姿勢推定をする方法を研究しています.